ぱっとやごうのジャズ千夜一夜物語
第3夜 そんな人ぢゃない
大学の図書館の3Fにちょっとした休憩室があり、そこは喫煙も出来たし人も少なかったのでちょっと軽い本を読んだりするのに良く利用していた。 あれは忘れもしない、僕がウォークマンでジョンスコフィールドの『BAR TALK』を聞きながら村上春樹を読んでいた時の事だ。 ジョンスコとスティーブスワローのインタープレーが素晴らしくクールでカッコ良い。 JAZZの未来が見えてきそうな贅沢な時間であった。
ところが ‥
あわててウォークマンをはずすとその声は確かにこの階の女子トイレの方から聞こえてきたのだ。
これには驚いた。
─ 大学の図書室の女子トイレで白昼エッチが行なわれている! ─
僕はこのまま出てくる二人を見てやろうかとも思ったが万が一知っている女の子なんかが出てきたら僕は痛くショックを受けると思い、そそくさとその場を後にした。
僕は2年後輩の僕の彼女と、もう一人は当時仲が良かった安部君の二人だけに話した。
悲劇は数日後に発覚したのだ。
安部君が2年後輩の別の女の子にその話をしようと話し始めた時、その女の子は泣きそうな声で「そんな話止めてください!」と、言ったそうなのだ。 そこまでは普通の話である。 しかし、彼女は続けたというのだ。
「やごーさんてまさかそんな人だと思わなかった ‥」
‥ 違う!違う!俺じゃない!どこでどうなった?
で、友達がいのある安部君は当然否定してくれたのだろうと思ったら 「あんまり語気が強いのでその話はそこで終わりになっちゃった ‥」そうで、 この嫌疑は20年経った今も晴れていないに違いない。
よしだよしみさん!
何かの間違いでこの文章を目にする機会があれば聞いて欲しい。
─ 僕はそんな人ぢゃない! ─
こんな話もある。
当時ボクシング部だった僕は練習が終わってからクラブの連中とサウナに行って練習では落ちないウェイトを試合に向けて落としたのだ。
その話を安部君にした。
「たまにサウナに行くと本当にスキッとして心身ともに気持ち良かった」
安部君は今度は同級生の女の子に話したらしい。
「ボクシング部は練習が終わったらたまにサウナに行くそうだ。気持ち良いらしいよ」
すると今度の女の子は吐き捨てるように言ったらしい。
「やごーさんたち不潔!スポーツマンのくせに ‥ 団体で練習のあとに ‥ もう顔も見たくない!」 ‥
彼女はサウナとトルコの区別がついていなかったらしい。
安部君は、 「あんまり語気が強いのでその話はそこで終わりになっちゃった ‥」そうで ここでも訂正も否定もしなかったらしい ‥
が、この嫌疑は晴れたという噂は後日耳にしたのでほっとした。
みわあつこさん、あなたのだんな様もきっとたまにはサウナで汗を流しています。
あべひろゆきくん、君のおかげでこんなところにショートショートが書けました。もう恨んだりしていません。
BAR TALK / JOHN SCOFIELD
1980年 ARISTA NOVUS