ぱっとやごうのジャズ千夜一夜物語
第4夜 おさまるべき場所 その2
─ うそだろー!何だこれは!? ─
仰天した。
このオークション会場にはカッターシャツ3枚とスラックスだけではなくて、 有るは有るは、僕が物心ついてから愛着を持って着た衣服たちがあふれんばかりに展示されているのである。 デパートの制服のような事務服を着た女の子に言った。
「ちょっと、これ全部僕のだよ。これも、これも。あれは彼女とお揃いで買ったトレーナーだし」
女の子は身じろぎせずに、でも少しだけニコッとして「でも期限切れですから」と、言い放つ。
仕方なしに会場を端から順に見て回る。 もうすっかり忘れていた様な服まで、 しかし確実に『僕のもの』と言い切れるものが次から次へと並んでいる。
─ オークション?これじゃまるでデパートかブティックのバーゲン売り場じゃないか? ─
何から何までわけのわからない腹立たしさに懐かしさが追い打ちになって変な気分だ。 ふとみるとサラリーマン風の男が一本のネクタイを持ってレジに並んでいる。
─ レジ?? オークションにレジ?? ─
やっぱり何かおかしい。オークションなんかじゃない。
─ あっ、俺のネクタイ!卒業前に大学生協のおばちゃんがお祝いにくれたネクタイ。 もらいものだもんな、まずいヨそれは ─
そんな事を思いながらこのサラリーマン風の男に近付いていって理由を話してみる。
「あの、頂きものなんです。卒業の時の ‥ それね、僕のなんです ‥」
全く反応が無い。 サラリーマン風の男には僕の言葉が聞こえない。 僕の姿さえ見えていないのかも知れない。 苛立ちと理由のわからない怖さからか、僕は発作的に大きな声を出す。
「あんたの倍で買うよ!!俺はね、それが欲しいんだよ!俺が買わなくちゃいけないんだ!」
その瞬間、相変わらず無表情の男は無言で僕にネクタイを手渡してくれた。
─ さて、どうするかな。どれもこれも人に買われてたまるもんか ─
大きな声を出して勢いのついた僕は入り口にあるカートを持ってきて、次から次に愛着の有る衣服たちを片っ端からその中に放り込む。
─ これは、学園祭のステージ衣装 ‥ これは ‥ そうだよな、これ結構気に入ってたんだよな ─
結局カートが2台と半分あっという間に埋まってしまい、僕はレジの女の子に聞いてみる。
「いくら?いくらになるんだよ?」
彼女は機械的な手付きでレジを叩いていたがしばらくして言った。
「895,000円になります。」
─ !!!$$$\\\!!!はちじゅう ‥ きゅうまん ─
どこかで何かの歯車が確実に壊れている。
‥ でも ‥
「ちょっと待っててよ、10分ちょうだい。すぐにお金作ってくるからね。ホントに、待っててよ!」
そう言い終わるか終わらないかのうちに、 僕は駐車場まで走って行き、いすゞPIAZZAを全速力で銀行まで飛ばした。 駐車場で随分たくさんの人とすれ違ったのがちょっと気になった。
続く