ぱっとやごうのジャズ千夜一夜物語

第9夜 GOOD BAITの落書き帳 その2 ALEX

5月14日にエジプトにいたときのお話です。

僕は形容しがたい程激しい下痢に悩まされ、前日から何も口にしていなかった。

その日はカイロからアレクサンドリアに移動の日で、朝から座席指定の特急列車に乗った。

フランス製だと言うその特急の座席は快適で、前日からぐったりの僕は座った途端に電車が走り出す前にもう眠り込んでいた。

しばらくうなされたのは何となく覚えているが、いつの間にか快適な列車の揺れ具合と冷房のおかげで気分が楽になっていった。

僕はGOOD BAITでダラーブランドを聴いている夢を見ていたらしい。

『GOOD NEWS FROM AFRICA』のA面最後を飾る『アッラーアクバル(神は偉大なり)』の繰り返しを、頭のなかで残響音として残したまま目を覚ました。

むにゃむにゃしながらぼーっと窓の外に眼をやると、驚いた事に一面にヤシの木が規則正しく、そして果てしなく並んでいて僕はしっかりと目を覚ます。

─ うひゃー、カッコ良い!アフリカ!アフリカ! ─

日差しもアフリカ。何もかもアフリカ。

僕が3日間滞在したエジプトとはあきらかに違う風景を目の当たりにして、僕の心は一辺にしゃきっ!とする。

と、夢で見ていたはずの『アッラーアクバル』が、こんなにしゃきっと目を覚ました後にもはっきりと聴こえてくる。

─ ん?? ─ と思って車内を見渡してみると、民族衣装を着たアラブ人が手に小さなコーランを持って、それを詠んでいるのである。

アフリカ大陸の最北端でイスラムの人々の列車の中に僕は一人。

何の飾り気も無いすっぴんのコーラン独唱をBGMに窓の外のヤシの木に眼をやる僕は、それがとても特別な空間のような気がして心が震えた。

『アッラーアクバル』『神は偉大なり』

素朴なその繰り返しが、ある環境の中では芸術なのだなーと思った。

GOOD NEWS FROM AFRICA / DOLLAR BRAND

1979年 ENJA

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