ぱっとやごうのジャズ千夜一夜物語

第11夜 GOOD BAITの落書き帳 その4 出さない手紙1

Juju

突然のお手紙どうもありがとう。

僕は昨日GOOD BAITの常連たちと連れ立ってロリンズじいさんを聴きに行ってきました。 最近は好んで聴く事もしないのでそんなに熱くはならないと思っていたのに、 じいさんがステージに出てきた途端に胸の奥に隠れていた思い入れがドワッとあふれてきて、 テナーを持ったままのけぞって仁王立ちになるのを見た瞬間に、 僕は自分が泣いているのに気が付きました。

何なんだろう?

君と一緒に見た時の様な圧倒的なロリンズはやや影を潜めていると言うのに、 ボビーハッチャーソンやアルフォスターがソロを取っている横で、 本当に幸せそうに手拍子を打ったり掛け声をかけたりしているロリンズや、 カリプソになると突然昔の勢いを思い出したかのようにブローするロリンズを見ていると、 昨夜もまた日常の細々した事などどうでも構わないという風に思えたりしました。 いつもこうるさくコンサートに難くせをつけたりする僕がそんな事はどうでも良くなって、 まばたきなんかしない様に元気一杯のじいさんに、 心から声援を(時々声をあげたりなんかしながら)送りました。

えーと、そうなんだよ。 君が自分で書いているように 『あなたはいつまでも変わらないで下さい』式の事を書くのは、 本当にずるいやり方だと思うな。 でも、そんな事は百も承知でも男の子なんていうのはそういった分かりやすい言葉には、ちょっと弱い。 ちょっと弱いから恥ずかしくて突っぱねてみたくなる。 僕がずっと、変わらないでいたら、ちょっと素敵な女の子たちは、みんな同じ事言いながら、どっかに行っちまうに決まってるんだからね。 君みたいに‥

GOOD BAITの常連の女の子がね、 僕がゴールデンウィークも早々にここに戻って来たのでずいぶん驚いて、 『ぱっとさんもすっかり三河人になってしまってー』だって。笑っちゃったな。

だって君との時代には有り得なかった事だからね。 ともかく相変わらずGOOD BAITが一等賞の毎日です。 JOHN SCOFIELDが名古屋のLIVE HOUSEにようやくやって来てダントツ。 カポーティーの<ティファニーで朝食を>の小説の方を読んだら、映画とは全然別物なのでびっくり。 ソプラノサックスはまじめにやってる割には、椿田薫(この辺でちょっとだけ有名なアルト吹き)にキャバレーのサックスみたいと言われて‥

えーと、散漫だね。

何だかね、正直何を書いて良いのやら全くわからない。

ただ、好きなものは相変わらず大事にして毎日やってる、そう言うことを書きたいのかも知れない。

それでね、 僕は君の事は何も訊ねたりしない、 というか訊ねる術をまだ知らない、 今のところは。

君への思いはまだまだしばらく尖がったり丸まったりし続けるんだと思う。 時々スイッチがいよいよ切り替わったように思うけれども実はそうはいかない。 スイッチを切り替えたいのかそうでないのか自分の中でよくわからない、残念ながら。

あ、そうそう、移転後の『やかた』をこの間の連休に大阪に戻った時にようやく見つけ出してね、中に入ってびっくり! カウンターだけの8人も入れば満員の小さな店になっちゃってた。 マスターがうれしそうに寄ってきて 『初めてやな、やっと来たなー』と声を掛けてきた。 僕は『もう、ほんまに捜した捜した。』と笑いながら言った。 おっさんは『大阪はコーヒーだけのジャズ喫茶全滅や。全滅!』 と言ってから君の事聞いてた。 その気があったら捜してでも訪ねてやれば? 『あの子のファンやったんやで』とか言ってたから。 千日前地下のあの店独特の空間でのモブレーやマッコイやコルトレーンは、僕の中では大阪の中の大阪だった。 同じレコードでも他の店とはまた違った大阪の音がした。 僕にとってのハードバップ幼児体験。 だからどこかでデクスターゴードンなんかを耳にしたら、僕はあの空間を想い出す。 そしてあの空間を思う度に、笑ったり泣いたり怒ったりしている君がそこにいる。

それでね、今度は忘れた頃に僕の方から一筆したためたりします。

君とフラットになれそうだな、と思えて君の事少しは訊ねたり出来そうになったらね。

優しい出来損ないばかりのGOOD BAITの仲間に囲まれて、そんな日はすぐにやって来そうな気もします。

僕が心を痛めたように君が心を痛める日が来ない事を少しだけ祈っています。

じゃー。

IN STOCKHOLM / SONNY ROLLINS

1959年 DRAGON

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