ぱっとやごうのジャズ千夜一夜物語

第12夜 GOOD BAITの落書き帳 その5 MILES SMILES

常連の女の子がオペラ鑑賞に出掛けてしまうと、ここGOOD BAITの雰囲気もがらりと変わり、いよいよマイルス追悼といった感じになる。

『STELLA BY STARLIGHT』のイントロのミュートがキューンと胸に来てしまう。

突然の悲しい知らせにようやく、気持ちが追いついて来た。

昨日、僕たちは何も知らずに下山村の小さな野外ステージで、一曲めに『MILESTONES』を演奏した。マイルスは死の床で東洋の田舎の村での下手くそな『MILESTONES』を聞き、 「ケッ!どうしょうもない下手くそどもめ!」と、最後まで憎まれ口を叩いていたかもしれない。 いや、叩いてくれてくれたならそんなに有り難い事は無いが、残念ながら我々はそんなレベルには無い。 それでも、マイルスの亡くなった日にそのような曲を演奏していた事は後々まで記憶に残るだろう。

マイルスが亡くなっただけで、何年間も忘れていた顔や名前や場面が頭の中でモワーッと果てしなく拡がってゆく。 それは今日明日の事だけかもしれないにしても、偉大な力だと思う。 これから営業ベースに乗っかった、下らないメモリアルアルバムなんかがやたらとたくさん発売されるだろうけど、 僕や僕達の心の中の今の思いが本当の追悼の気持ちなのだと思う。

僕たちJAZZ中毒者は暗い気持ちで部屋の明かりさへ落としてマイルス漬けの夜を過ごす。

そういう薄暗いJAZZ MOVEMENTの一番最後の時代にぎりぎり間に合った僕は、この空気感を忘れないようにしたい。

もう二度とやって来ないであろう、寡黙を良しとする、MODEやFREEの渦の中に身を任せた時代の空気を忘れないようにしたい。

『MILES SMILES』『MILES SMILES』‥意地くその悪いマイルスのニカッと笑う顔が僕の脳裏を行ったり来たりする。

感傷的に過ぎる文章を僕は書く。

しかしながらマイルスがいなくなってしまったこの日に、感傷的な思いにさへ浸れない様なやからでは僕は無い。

少しはやすらかにねむってくだされ。

MILES SMILES / MILES DAVIS

1967年 CBS

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