ぱっとやごうのジャズ千夜一夜物語

第13夜 GOOD BAITの落書き帳 その6 出さない手紙2 『すれちがい』

千波さま

随分ご無沙汰していますが元気ですか?

僕は昨年中止になった海外出張の為に君が餞別でくれたウェストポーチをつけて、ようやくアラブの国々に行ってきました。 帰りに立ち寄ったドイツで、エゴンシーレのポスターブックを買ったのですが、渡すのはいつの事になるんだろうね。

突然手紙を書いたのは、おとつい突然わかった事があって、恥ずかしくて仕方が無くて、 君に話しておかなくてはならないと思ったからです。

君がなぜSCREEMIN' ジェイホーキンスを聞きに行こうと、僕を誘ったのかがやっとわかったのです。

ジム・ジャームッシュの映画の何本かが素敵だったので、僕はまだ見ていない彼の新作について書かれたエスカイアの記事を君に送ったんだ。

そしてそんな事は忘れてしまって、その映画も見ていなかった。

それをおとついレンタルしてようやく観て、とんでもなく重要な事に気付いてしまった。

『ミステリートレイン』は彼の作品らしく、何と言う事は無いストーリーの筈なんだけど、 メンフィスの田舎町を歩いている姿の録り方なんかがいかにもでカッコ良いよね。

工藤夕貴もかわいかったけど、ジェイホーキンスの赤のジャケットはダントツで、カッコ良かった。

僕は彼が画面に現れた時に息が止まるかと思った程、一瞬にして自分がどれだけまぬけだったかが分かった。

だって僕が薦めた映画を君が観てくれて、その中に出ていたカッコ良いおっさんのLIVEを君の誘いで一緒に聞きに行ったと言うのに 僕は全く気付いていなかったんだからね。

僕は良く覚えていないけれど、LIVEの夜は君にとっては何を話しても拍子抜けで、 さぞや冴えない夜だったんだと思う。

そして僕は、とびきりカッコ悪かったんだろうね。

一体君より10歳近くも年上だと言うのに‥

全く情けない話です。

ごめんね、今更だけど‥

世の中には随分たくさん素敵な女の子がいて未だに胸がときめいたりするけど、 君の様な子にはお目にかからないな。

僕は大事な時に失敗する。本気の時にへまをやる。君との時間は一度だってまともじゃなかったね。

アフリカ民芸の美術館は見つからなかったし、君が風薬とおにぎりを持って見舞いに来てくれた時も、 僕はドーナツ屋で熱にうなされながらぼーっと坐っていた。

きっとそれについてのお礼さえしていなかった様に思う。

何も伝言は残ってなかったけどあれは君だよね。

ありがとう。また今更だけど‥

30になったというのに、僕は相変わらず『普通の大人』には縁遠い存在である様です。

だからもし、君と次に顔を合わせる事があるとしたら、 その時は君が『普通の大人』とはちょっと違っていたらホッとするんだろうな、と思います。

今日は代理有給で水曜日だけどお休み。

がらんとした昼間のGOOD BAITで、 アルバートアイラーの『SUMMER TIME』がくねくねと絡みついてきます。

平日のJAZZ喫茶に坐っていると、 少し手を伸ばせばもっと多感だったであろう頃の自分をこちら側にもう一度手繰り寄せられる様な気がします。

そして、それが錯覚では無い事を自分に証明するのが僕のライフワークだと思います。

なんてね。

うそぶくのはもうやめよう。また大事なところで失敗するだけだし。

じゃあね。

ALBERT AYLER IN GREENWICH VILLAGE / ALBERT AYLER

1971年 IMPULSE

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