ぱっとやごうのジャズ千夜一夜物語

第17夜 ダルエスサラーム

Juju,

AIR MAILありがとう。 ほんとうに。 前回の手紙は何年前だったかな? あの時も確かダルエスサラームからだったよね。 君の手紙が来るたびにいつも、僕はその立ち寄った事の無い大いなる大地に思いを馳せるんだ。

不思議だよ。 君と分かれてもう20年近くも経つというのに、 君は僕が本当にへこんで地面に這いつくばりそうな時には必ずこうやって、 何の前触れも無く手紙をくれるんだ。 僕が歴史的な(!)へこみ方をしている時に限ってね。

本当に不思議だよ。 数年前の君の手紙に何が書いてあったか覚えてるかな? 君はしてはいけない恋に落ちて、 なりふりかまわず恋に落ちて、 そしてその大きな代償を背負って途方に暮れた。 でも君はもう一度歩みだした。 そして歩みだした後だからこそ、もう10数年も前の事を僕に『許してください』と言い、 背負った代償についての事もきちんと知って欲しくて手紙をくれたんだ、 と書いてあったよ。

まるで君は、『しっかり、次はあなたの番よ。あなたが立ち上がる番よ』 と言うかのように、 その為には同じ事を何度も書かなくても、 ただ君から手紙が届きさえすれば、 僕が君の想いに気づくのだと言わんばかりに、 前回とは打って変わって淡々とした、でも優しい手紙をくれた。 そして君の思惑通りに僕は気付いたよ。

参ったね。

君の手紙は会社に配達されてくる。 だからいつも仕事の最中に突然舞い込んでくる。 何年経っても、 どんな状況でも、 君の表書きやはがきの文字をチラッと見ただけで、 それが君からのものだとわかる。 そしてその瞬間に日常生活、 社会生活からぽかんと穴の開いた空間が出来る。 その空間の中で、僕は君からのメッセージを受取るんだ。

今回ははがきで人目に触れやすいので全部英語で書いてくれたのかな。

『MAY YOUR GUITAR SAVE YOU、ALWAYS』

そんな風に言ってもらえてまともに受取れるのは君と、君以外のもう一人だけだ。 ありがとう、救われるよ。 せめて渾身の演奏を続ける。 そして君にもまた必ず音を届けるよ。

髪の毛が全部白髪になる前にそろそろ会ってもばちは当たらないよね。 また薄暗いお店でマッコイの『バラードとブルースの夜』でも聞こう。

正直に言うよ。 今この瞬間でさえ、今一番会いたいのは君じゃない。 多くは話さなくてもわかるよね。 でもね、今は色んな暖かい気持ちが本当に有り難いんだ。 不毛の大地に立ち尽くしているときにふとジャスミンの香りを嗅いだり、 辛い夢の中に突然君が出てきて2人でカゲフミをしてふざけたり、 、 そんな感じだよ。 そういう色んな暖かいもののおかげで僕はしっかり両足で立っていようと思う。 僕の大事な人たちが前を向いて充実の毎日を、そして健やかに過ごしてくれるなら、 僕なんてとんでもなくへっちゃらだよ。

ありがとう。

LOVE & SALAAM ─ すてきな響きだね、使わせてもらうよ ─

PAT

NIGHTS OF BALLADS & BLUES / McCOY TYNER

1963年 IMPULSE

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