ぱっとやごうのジャズ千夜一夜物語

第30夜 かげふみ(11)

僕は、本当に、何も知らなかった。 僕たちは執拗に壁際で不自然な姿勢のままKISSを繰り返した。 それは次に何をして良いかがわからない為でもあった。 それでも堅く閉じられていた彼女の唇は少しずつその力を緩め、ほんの少しずつ開いていった。 がちがちと言う感じで時々歯がぶつかりあったりしながらも、初めてにしては上出来だと思える柔らかい感触がようやく何となく感じられた。 自分でも恥ずかしくなるくらい大きな音で、「ごっくん」と唾を飲み込んだ僕は、 ようやくの思いで彼女の胸のあたりに手を持っていくと唐突にわし掴みにした。 僕はその瞬間に感じられるであろう喜びを何度か考えた事があったが、 実際にはブラウスやら下着やらのボタンや金具で何だかよくわからない感触だった。 それでも彼女は、「あっ、あの、困ります」と言ってあわてて僕の手を払いのけた。 頭の中で、よく映画などで見かけるこういった状況の後の、気まずい雰囲気のシーンが頭をよぎって、 ─ まずい、のかな?ここはやめちゃいかんよな ─ と思うが早いか、僕は彼女をミッキーマウスの大きな枕のところにバタンと押し倒して、上からかぶさった。

そして今度はセーターの下に右手を滑り込ませ、手探りでブラウスのボタンを2つほど開けた。 そうして遂に僕の手は不自然な持ってゆき方ではあるが、彼女の下着の隙間からその素肌へと到達した。

ものすごく暖かかった。

「きゃっ、」としゃっくりのような声にならない声を上げた彼女に驚いて顔を見てみると、 真っ赤になりながらも、「冷たいの。手が冷たいんです」と、彼女は困ったような、笑っているような表情で言った。

「あ、冷たかった?」と、これまた間の抜けた返事をしてしまった僕は、あわててその手をブラウスの上まで引っ込めた。

そしてもう一度、「冷たいから、ここで暖めてよ」と言いながら、 もう一度彼女の胸のふくらみへと手を伸ばした。 恥ずかしいから、顔は見なかった。 そうしてもう一方の手で彼女のセーターを首のあたりまで持ち上げ、ブラウスのボタンを全開にした。 とても良い香りがした。

そして僕は突然思ったのである。

─ あれ? 俺は一体いつ脱いだら良えんやろか? ─

【次週に続く】

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