ぱっとやごうのジャズ千夜一夜物語

第39夜 タイムカプセル

大掃除のたびにダンボール箱に入りっぱなしの、カセットテープの山をどうしようかと悩んでいた。 何年も聞いていないのだから必要無いと言えば無いのだが、中にはCD化されていないものや、FMでエアチャックした貴重なライブ音源などが有る。 有るには有るが、インデックスカードにきちんと記帳していないので肝心の時に探し当てられない。 記憶と言うのはいい加減なもので、─ 確か、83年のLIVE UNDER THE SKYのエアチェックはこれだよな ─ と思ってカセットテープをデッキに放り込むと、 松田聖子が『♪マンハッタンーのォ〜♪』とか脳天気に歌ってたりする。

そんなわけで、ようやくの事で必要なものは真面目にMDかCDに録り直して保存しようと思っている。 思い立ったは良いが、膨大な音源を全部録り直すわけには行かないのでまずは聞く作業、それだけでもう2ヶ月以上掛かっていて 全く音源を移す作業に取り掛かれずに気の長い話になっている。

何の気なしにデッキに放り込んだカセットテープからSTEVE SWALLOWのベースソロ、曲は僕の大好きな『SHE WAS YOUNG』だ。 音質が少し悪い。 アルバム『HOME』ではA面2曲目なので、これはアルバムを丸ごと録音したものでは無いな、と思い、インデックスカードを見てみるが曲名もタイトルも書かれていない。 でも良く見てみると焼けて色褪せてしまった水性マジックで、『HAPPY BIRTHDAY』と書かれている。

─ そうか、昔彼女からの誕生日プレゼントのおまけにもらったテープだったっけ ─

キースジャレット 〜 パットメセニー 〜 デビットマレー 〜 サンボーン 〜 ウェインショーター 〜 ‥

聞き進むうちに、いつ頃貰ったものかも大体の見当がついてくる、そしてこのカセットテープを一時は車に積んで聞いていた事も。

─ これはダビングはしないけど捨てないよね ─ と独り言を言いながら、そのほぼ白紙のインデックスカードに忘れないように、 『保存』とメモしようとケースから取り出して驚いた。 カードの裏側にかつて見慣れていた文字が、小さな文字がみっちりと書き込まれていた。

─ ありゃりゃ、これはこれは、タイムカプセルだな ─

また独り言を言った僕はその細かい文字を追ってみる。


「ぱっとくんへ、今頃気付いたのだね。

このメッセージを見つけるあなたは果たして25才でしょうか、30才でしょうか、40才でしょうか。

早く気付いて欲しいな。

このテープはJujuがぱっとくんの25才のお誕生日の為に、手間ひま掛けて(!)作ったオムニバステープです。

聴く前に、このメッセージを見つけたぱっとくんの遊び方を説明します。

1.紙と鉛筆を用意する。

2.ぱっとくんのくれた数々のテープの中から私の好きな曲を15曲予想する。

3.当たったらパチパチと手をたたく。

それでね、不幸にもあなたがこのメッセージに気付くのが5年とか10年とか先だったら、その時はちゃんと申し訳なさそうに謝ってね。

それが原因で、私たちの長い長い恋愛にピリオドが打たれたりしたら、不幸よね。あー、私って薄幸な女だわ。

でもね、でもね、もし、もしよ。 私たちがもはや離れ離れになってしまったりしてさ、あなたがある日このメッセージに気付いて、それがきっかけで私たちが奇蹟の復活☆をする、なんて言う事になったらそれはロマンよね、ロマン☆

あのね、曲当ての方は全部出来ても2つしか出来なくてもまる◎。 4回目のお誕生日プレゼントをあげられる事がうれしいです。 これからもずっとずっと、プレゼント出来るように、わがままで甘えん坊のJujuを大きな心で受け止めてね。 本当に良くここまでたどり着けました。 ありがとう、ほんとーにありがとう。 そしてどこまでも、どこまでもたどり着いちゃおうね。

PEACEFUL HEART & GENTLE SPIRIT,そしてお誕生日おめでとう。

1986.3.21 Your Juju」


「タイムカプセル、か。有るんだね」

今何曲目だろう。カーラブレイの『HEAVY HEART』が流れている。

25才でも30才でも40才でも無く、44才の僕がここにいて、ちょうど半分の22才の彼女からの手紙を読んでいる。 そしてもし22才の彼女に返信を書くをすればこんな風だろうか。


「22才のJuju、

僕は実に変てこなタイミングで君のメッセージを見つけてしまったよ。 だから君が書いていたようにまず謝らなくっちゃ。 実に申し訳なさそうに、冗談抜きで。 と言うのも、僕が君のメッセージを見つけたのは、君の憂慮も及ばなかった44才(!)というとんでもない時間軸を経過した後だったんだ。

結局僕達はどこにもたどり着けなかった。

でも心配しなくて良い。

君も僕も地に足をつけてしっかりと立っている。

そして大切なのはお互いにそれを知っている、という事だよ。 

僕達が歩んだこの手紙の後の4年くらいの間に、もしくは僕達が『僕たち』では無くなった最初の数年の間にこれを見つけていれば、何か変わっていたのかな。 僕は歳を取った、君も歳を取った、お互いに色んな経験をした。 だから44才の僕が今メッセージを見つけたからと言って何も変わらない。『奇蹟』や『魔法』は、物語の世界だと知っている。

でもね、そんな44才の僕でさえ、22才の君に言ってあげたい事はある。 それは、『君はとんでもなくHIPな事を20年越しにやってのけられる特別な女の子』だと言う事。 悔しいけどね、僕が首っ丈だった理由をしっかりと思い出したよ。 不思議だね、あさっては君の誕生日だ。 23才になろうとする君と、正しく年月を積み重ねてきた君の両方に何年振りかのHAPPY BIRTHDAYを贈ります。 どちらの君にも同じくらいの感謝を込めて。

ぱっとくん」

HOME / STEVE SWALLOW

1980年 ECM

僕がスタイルとしてのJAZZではなくて、 音楽としてのJAZZを本当に好きになったのは、 このアルバムがきっかけではなかったかと思います。

JAZZの持つ自由度、音楽を通じてのメンバー個々の会話、喜び、そう言ったものが感じられます。 楽曲、インタープレイ全て満点です。

黒かったりファンキーだったりするものだけがJAZZなのではない、のだと思わせてくれます。 このアルバムのおかげで僕の中では今でも、STEVE SWALLOWやSHEIRA JORDANはアイドルでい続けています。

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